行動分析学では、「行動が増えた状態」のことを「強化」と呼びます。そして、「行動が減った状態」のことを「罰」と呼びます。何度叱っても好ましくない行動が減らなかったら、叱るという罰が効いていないということです。
話が難しくなるので、とりあえずここでは、犬を叱るということを「罰」としておきます。犬に罰を使うと、以下のような副作用があるので、叱らないようにしましょうと、行動分析学を学んだ、多くのドッグトレーナーの人たちが唱えているみたいです。その理由として、
① 罰を使うと飼い主を怖がり、信頼関係が築けない。
➁ 罰を使った時の状況と、罰を関連して結び付けてしまう。
➂ 代替となる行動が出る。
④ 中途半端な叱り方は、ご褒美となってしまう。
⑤ 攻撃行動を誘発するかもしれない。
⑥ どんな学習をするかがわからない。
などです。私の経験上、確かにこのような副作用が稀に出ることがあります。
以下、↑に述べた副作用についての解説になります。
① の「飼い主さんを怖がるようになる」という面では、四六時中叱られていたら話は別ですが、そうでなければ、絶対に↑のようなことは起こりません。なぜなら飼い主さんは、犬が世界で一番大好きな存在だからです。
普通の飼い主さんであれば、ご飯をあげたり、触ったり撫でたり、散歩へ行ったりと、24時間叱ることだけではありませんよね!? 褒めてもらったり、遊んだりして楽しい時間もある訳です。
そうであれば、叱ったり、罰を使った直後には、多少飼い主さんに対して怖がる様子を見せることはありますが、ずっと怖がったり嫌いになるなんてことはありません。
同じように犬を名前で叱ってはいけない、とよく言われますが、僕は名前で叱っています。叱る時は「大ちゃん!!!"(-""-)"」そして、遊ぶ時や散歩に行く時に名前を呼ぶときは、「大ちゃ~ん(^^♪)」という感じです。
叱られた時は、耳が倒れて本当に怖そうにしますが、「大ちゃ~ん(^^♪)」と呼んだ時は、尻尾を振って飛んで来ます。人間の子供も名前で叱りますよね。怖いけど大好き、大好きだけど怖いというのが、バランスが取れてちょうど良いと思います。
➁ は、私の生徒さんで犬が吠えた時に、吠える度に缶を投げていたら、そのうち犬が缶を見ただけで、逃げるようになったとのことです。この方法は、多くのトレーナーたちが推奨しているみたいです。ちなみに、私自身は絶対にやりません。(犬を家畜として飼っていれば、やってもよいでしょう)
➂ は、おしっこを失敗したら、鼻先を床に押し付けるなどの古典的な罰がありますが、この場合は、飼い主の見えない場所で隠れて排泄をするようになることがあります。まあ、さすがに今どきやっている人はいないと思います。
④ は、犬がお散歩の時に他の犬に吠えた時に、「ダメよー」とか「お友達でしょー」「ワン言わない」などと、優しい声で声をかけている飼い主(とくに女性)を見かけますが、本人は叱っているつもりでも完全にご褒美となっている例です。
なので、ますます頑張って吠えるようになります。また、おやつで気を引くというのもありますが、これは犬が吠える度におやつというご褒美を与え、吠えを強化していることになるので、これも吠えが一時的に止むだけで治ることはありません。
⑤ は、すでに攻撃性を持っている犬を叱ったり、体罰を与えたりすると、余計に逆切れして向かってくる犬がいます。大抵の犬はきつい叱責を与えると、服従の姿勢を見せるのですが、中には怯むことなく死ぬまで戦おうとする犬もいます。
⑥ は、その通りですね。罰を与えるだけでは、いつまでたっても飼い主が望む行動は覚えません。なぜなら、正解を教えてもらっていないのですから。よく「うちの犬は馬鹿だから」という飼い主がいますが、それは、犬は叱ればいけないことが分かると思っているからです。犬にしてみればいい迷惑ですね。
ほとんどの飼い主の方が、犬が好ましくない行動をした時に叱って止めさせようとします。しかし、「何が悪いかの理由づけと反省ができない」犬をいくら叱っても、好ましくない行動が減ることはありません。ただし、これは叱ってはいけないということではありません。
また、厳しすぎる叱責を与え続けると、犬に「卑屈さ」を植え付けることになり、本来、天真爛漫だった子が、暗~い性格に変わってしまうということもあります。
大切なことは、好ましくない行動=間違いを叱って止めさせようとするのではなく、好ましい行動=正解を、日々の生活の中でただひたすら教え続け、その好ましい行動が、やがて習慣になるまで、諦めずに続けるのです。しつけ=習慣なのです。
いまだにしつけと訓練、トレーニングが混同されています。もし、私が犬に持って来いや、フリスビーなどを教えたくてトレーニングをする場合は、モチベーションを大切するので絶対に叱りません。なぜなら、叱って上達することはありえませんから。人にテニスを教える時も同じです。
トレーニングをする時は、犬の希求性が大切なのです。出来ないからといって叱るとモチベーションが下がり、覚えることを拒絶してしまうのです。
しつけとは、犬も人間も「やってもよいこと」と「やってはいけないこと」を教えることです。犬が好ましくない行動をした時、そして、それが周りに迷惑をかける行為であった時は、「それは、して欲しくない」ということを、犬に理解してもらう必要があります。
犬にとってどのような行動をしてはイケないのか、きちんと感情が伝わるように叱るのであれば、叱っても構いません。なぜなら、犬はその感情をちゃんと読み取ってくれるからです。犬は、あなたが本気で叱っているかどうかはすぐわかります。私はこの部分を一番大切に考えています。
ある哺乳類動物の研究でも、親にきちんと叱られることに愛情を感じ、叱ってくれる親にすがろうとすることが認められています。そして、犬を叱る資格と権利がある人は、飼い主としての責任をきちんと果たせている人だけです。
どちらにしても善悪の概念がない犬を叱っても、犬にとっては理不尽な事ばかりだと私は思っています。そして、あなたが些細なことで短気を起こして愛犬を叱ったとしても、私はそれでいいとも思います。なぜならあなたの愛犬は「家族の一員」なのですから。家族であれば、些細なことで親子げんかも兄弟げんかもするでしょう。
でも、それが家族なのです。しかし、それでもあなたの犬は、どんなに叱られても正解を教えてもらえなくても、あなたに変わることのない永遠の愛情を向けてくれるのです。そして、どうかこれだけは覚えておいてください。
どんなに頑張っても、犬たちが私たちに向ける愛情には勝てないということ。
どんなに叱られても、あなたの愛犬はあなたのことが大好きだということを。
犬たちは、常に私たちに話しかけ問いかけてくれているということを・・・。